強制辞任させられた場合の残存任期役員報酬損害賠償請求の可否

会社の取締役は、任期途中で正当な理由なく解任されたとしても、会社法に基づいて残りの任期分の役員報酬を損害賠償請求することができます。

これに対して、強制的に辞任届を書かされて会社を辞めた場合は、会社法によると残りの任期分の役員報酬を損害賠償請求はできなさそうです。しかし、強制的に辞任届を書かされたケースは、解任とほとんど同じようなものなので、残りの任期分の役員報酬を請求することができないものでしょうか。

今回は、強制辞任の場合の残存任期役員報酬損害賠償請求について、具体的な判例を参考にしながら解説します。

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正当な理由がないのに会社役員を解任された時は残存任期役員報酬損害賠償請求ができる

会社から特に正当な理由もなく、突然任期の途中で取締役を解任される、つまり不当解任される可能性はゼロではありません。これは、会社法によって取締役の解任はいつでも株主総会での決議で行えると定められているためです。

取締役としては、任期の途中で解任されるなんてあって欲しくありませんが、万が一不当な理由によって途中解任された場合は、会社に対して損害賠償請求をすることができます。これも会社法によって定められています。

強制辞任させられた場合も残存任期役員報酬損害賠償請求ができるのか?!

しかし、中には無理やり辞任届を書かされ、形のうえでは自らの意思で取締役を辞めたように見せかけて実際には解任と同じ、というケースも存在します。そのような強制辞任による事実上の解任の場合でも、任期の残存期間分の報酬を請求することができます。続いては、強制辞任に伴う事実上の解任で損害賠償請求を行なった具体例を紹介します。

具体的な事例

案件の概要

こちらの案件の原告はAとBの親子2人です。

AとBはそれぞれ被告会社の取締役を務めていましたが、被告Dから脅されて辞任を強要されたと主張しています。

これに対する損害賠償を請求したのがこの裁判です。

案件の争点

争点は大きく分けて以下の2つです。

争点1:被告が原告Aに対して脅しを行い、会社の取締役の辞任を強要したかどうか

争点2:被告が原告Bに対して脅しを行い、会社の取締役の辞任を強要したかどうか

この争点に対して、当事者間ではそれぞれ異なる主張が展開されました。

争点1に対する当事者の主張

まず原告の主張です。

  • 原告Aは、被告Cのせいで倒産しそうになっていた被告会社を立て直した
  • 被告Cは被告Dと共謀し、原告Aを会社から追い出し被告Dを取締役にしようとした
  • 原告Aに対して被告Cと被告Dが「お前は背任、横領している」と怒鳴りつけ脅迫し、取締役を辞任するように強要した

これに対して被告の主張は以下の通りです。

  • 被告が原告に対して辞任を強要した事実はない
  • 原告Aは背任、横領の責任を認め、取締役を辞任している
  • 原告Aは原告Bが取締役を務める会社に横流しをしており、その事実を認めている
  • 再び横領の事実が発覚したため、事情聴取したところ、辞任届を作成することになった
  • 被告Cは被告会社の株式の多数を支配しているため、辞任を強要する必要はない

争点2に対する当事者の主張

続いて、争点2に対する当事者間の主張です。まずは原告の主張を紹介します。

  • 被告Cは被告Dと共謀し、原告Bを会社から追い出そうとした
  • Bが取締役を務める会社の事業を被告会社のものにしようとし、原告Bに対して原告Aの背任、横領を理由に取締役を辞任するように強要した
  • これによって原告Bは取締役を解任させられた

一方の被告の主張は以下の通りです

  • 被告が原告に対して辞任を強要した事実はない
  • 原告らは原告Aの背任、横領の責任を認めたため取締役を辞任した

判決

原告と被告の主張は真っ向から対立したものとなっていますが、裁判の結果、被告に対して原告への損害賠償金を支払う、という判決が下されています。

まず争点1に対する判決理由は、以下の通りです。

  • 原告Aは職員らの信頼を得て、会社運営に中心的に携わっていた
  • 被告Cは会社運営の不透明さにより、職員らの信頼を失いかけていた
  • 被告Cは会社の幹部会で、原告Aと関係を維持していく旨の発言をしている
  • 被告Cは会社の幹部に対して原告Aの背任や横領の話をしていなかった
  • 被告Dは会社の取締役や監査役ではなかったが、原告Aに対して責任追及し、原告Aが辞任届を作成した際にも同席している
  • 被告Dは原告Aが取締役を辞任した後に会社の取締役に就任している

など
続いて、争点2に対する判決理由は以下の通りです。

  • 被告Cと被告Dは原告を会社から追い出したい意向を持っている
  • 被告会社の経営に関わっていないにも関わらず、被告Dが被告Cからの依頼を受けて原告Bと面談したことが認められた

以上の理由から、原告A、Bの辞任は被告C、Dによって強制的にさせられたもので、事実上の解任であったと判断され、被告C、Dは損害賠償を支払うことになりました。

まとめ

本来、辞任により取締役を辞めている場合は、残存任期役員報酬損害賠償請求は行えませんが、強制辞任させられたことによる事実上の解任であれば残存任期役員報酬損害賠償請求が認められる可能性があります。もし当てはまるケースがある場合は、まず弁護士に相談するなどしてみましょう。

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