取締役を解任・辞任強要・不再任させられたら!役員解任損害賠償請求権!
事前の相談もこれといった理由もなしに役員解任された、自ら取締役等を辞任するよう無言の圧力をかけられたなど、不当な解任を受けた取締役等は、会社に対して損害賠償請求を行うことが可能です。
この記事では、取締役等の不当解任による損害賠償請求とは、請求可能な報酬、裁判の争点となる解任の「正当な理由」についての解説に加えて、特例有限会社や非上場会社などで取締役等の任期が2年以外のケースや、解任以外にも役員報酬の減額・辞任強要などのケースについても解説していきます。
役員解任され、損害賠償請求を検討する際に、ぜひご活用ください。
取締役等の不当解任による損害賠償請求
最初に、会社が役員解任できる仕組みと、取締役側の対抗手段としての損害賠償請求について、概要を解説します。
株式会社では経営を行うのは取締役等ですが、実際に会社を所有しているのはお金を出している株主です。そのため、取締役等が違法行為など、株主の利益を損なう行為を行わないように対策を取る必要があります。
このような事情から、取締役等の役員は株主総会の決議があれば解任できると、会社法339条1項で定められています。
具体的には、50%超の議決権をもった株主が総会に出席し、そのうち過半数の賛成(普通決議)が必要です。決議さえあれば解任自体に制約はなく、特別な理由がなくとも役員解任できます。ただし、会社によっては定款でこれより厳しい要件を設定している場合もあるため、最初に定款を確認してください。
取締役等は株式会社に雇用されているのではなく、委任(仕事などを任せること)を受けている状態です。委任をわかりやすく示すと、Aさんが弁護士を頼むときは委任契約を結びます。弁護士との契約はいつでも自由に解除でき、雇用のように解雇規制を受けません。会社と取締役等も、Aさんと弁護士と同じ委任関係です。
しかし、いつでも取締役の解任ができるのでは、取締役側の任期や報酬に対する期待が保護されず、取締役は不安定な立場に置かれます。
それゆえ、取締役の解任自体は理由がなくてもできますが、「正当な理由」がない不当解任の場合には、取締役側に会社への損害賠償請求を行う権利を認めています(会社法339条2項)。
取締役に損害賠償の権利を認めることで、取締役側の期待保護と、株主が会社運営に及ぼす影響力とのバランスを取っているのです。
残存任期役員報酬の損害賠償請求が可能
取締役は不当解任を受けたときに、解任されたために得ることができなかった報酬額に対して、損害賠償請求を行うことができます。
- 残存任期分の役員報酬
- 残存任期分の役員賞与
- 任期を満了していたら受け取れた退職慰労金 など
そのほか、家賃補助費やプロジェクトの成功報酬、訴訟にかかった弁護士費用など、思わぬものが損害に数えられるケースがあるため、対象の検討は専門の弁護士に依頼して慎重に行ったほうがよいでしょう。
不当な解任の場合のみであるが、「正当な理由」が認定されるとは限らない。「正当な理由」の範囲とは?
取締役は、解任される「正当な理由」がない不当解任の場合に損害賠償請求ができるため、裁判では解任に「正当な理由」が存在するかどうかが焦点となってきます。
「正当な理由」であると認められやすいもの
正当な理由と認められやすいものとして、次の類型が挙げられます。
- 法令や定款を違反した場合
- 心身の故障により、職務が遂行できない場合
- 能力不足が顕著な場合
このうち心身の故障や能力不足については、その程度によって正当な理由といえるかどうかが争点となります。解任された取締役が損害賠償請求を起こし、正当な理由があるかを争った事例をいくつか見てみましょう。
ケース1:心身の故障
代表取締役のAは病状の悪化により療養への専念が必要になったため、会社の株式すべてを取締役Bに譲渡し、新たな代表取締役としてBが就任しました。1か月後、Bが招集した臨時株主総会の決議にて、Aは取締役を解任されました。
→○・療養への専念が必須な状態のため、解任には正当な理由がある(昭和57年1月21日・最高裁判決)
ケース2:顕著な能力不足
Cは、ある会社において顧問税理士と監査役を兼任していましたが、税務処理において明白なミスを犯したことにより、監査役の解任に至りました。
→○・解任には正当な理由がある(昭和58年4月28日・東京高裁判決)
ケース3:顕著な能力不足
取締役Dはプロのボウラーとして活躍した経歴があり、ボウリング関連会社W社の取締役(任期10年)に就任しました。W社は、Dに対して営業経費や(Dの要請で)第三者に月10万円の顧問料などを支出します。ところが、Dは1年でのボウリング事業黒字化を約束したにもかかわらず実際の売上は計7万円に過ぎなかったため、W社は取締役Dを解任しました。
→○・解任には正当な理由がある(平成24年7月20日・横浜地裁判決)
能力不足については、程度を表す顕著な事例がある場合に、正当な理由として認められるケースがあります。
また、典型例からは外れますが、会社に対する敵対的行為も正当な理由と認められる傾向があります。
ケース3:行き過ぎた内部告発が敵対的行為とみなされた事例
X社の取締役Eが、X社の会社法違反事実について、国土交通省や道路公団、週刊誌に内部告発(公益通報)した結果、取締役を解任されます。
ところが、Eが各所に提供した情報は、公益に関わる情報と単なる会社内部の情報が混在していました。また、公益通報なら週刊誌まで情報を提供する必要はなく、週刊誌掲載により会社の信用が失墜するのは予測可能です。
Eが人事異動の打診を受けた後に告発を始めたことから、Eの告発は、公益通報よりもX社への報復が目的である敵対的行為と判決ではみなされました。
→○・解任には正当な理由がある(平成18年8月30日・東京地裁判決)
「正当な理由」として認められないもの
一方、正当な理由として認められにくいものとして、次の類型が挙げられます。
- 主観的な信頼関係喪失
- 経営判断で失敗を犯した場合
「主観的な信頼関係喪失」とは、会社代表や大株主による好き嫌いや、もっと向いている人がいるなどといった、客観的な裏付けのない事情を指します。
ケース4:代表者との折り合いが悪くなったために解任
Y社は取締役Fを解任しました。Y社は言い分として、Fは激しやすい性格のため周囲との人間関係が破綻している、近年では業績も上げていない、内職として不動産売買の仲介を行い本来ならY社の利益となるべき手数料を着服して損害を与えた、と主張しました。
ところが判決では、Fは怒りやすい性格ではあるものの、取締役に就任した実績からみても「業務上の障害」といえるほどの問題点は認められず、孤立したのは会社代表との折り合いが悪くなったためであり、不動産仲介においても利益を得たと言い切れるほどの証拠がないと判断しています。
→×・解任には正当な理由がない(昭和57年12月23日・東京地裁判決)
経営判断の失敗については、会社の損失と取締役の因果関係を立証することが難しく、結果として会社に損失が出たようなケースでは正当な理由として認められないことが多いです。
ケース5:経営判断の失敗
Z社は、取締役Gを不適任であるとして解任し、業務手続ルールやグループ方針の不遵守、ある措置の未策定や非協力、目標未達、離職者の数などを理由として挙げています。
ところが判決では、事実関係が認められないか、認められても解任に値するほどではないと判断しています。また、業績低迷中だったZ社は収益改善のためにGを招聘し、Gの就任後にZ社は黒字転換、在任中は黒字を保っていた実績などから、解任に正当な理由があるとまではいえないとしました。
→×・解任には正当な理由がない(平成29年1月26日・東京地裁判決)
経営判断の失敗は認められないケースが多いですが、能力不足を原因とする失敗については、能力不足の程度によっては認められることもあります。
ケース6:経営判断の失敗
取締役Hは脳血栓で数か月入院し、退院後も通院治療が必要で、会話能力なども低下している状態でした。そんな折、Hは個人的な株式取引の穴埋めとして、会社の定期預金を担保に借金したうえ、インパクトローンなどの投機性に富む取引を行って、会社に多額の損失を与えたため解任へと至りました。
→○・解任には正当な理由がある(平成6年11月29日・広島地裁判決)
「正当な理由」の立証責任は会社側にある
取締役等が不当解任に対して損害賠償請求をした場合に、解任にあたって正当な理由があることの立証責任は会社側にあり、会社側は証拠を用意して正当な理由の存在を証明することを求められます。
たとえば、取締役が不適任である正当な理由を立証するには、ケース5のように多くの理由を主張しても、会社側の供述のほかには客観的な証拠が存在しないパターンも多く、解任に際しての正当な理由が認められない裁判事例のほうが圧倒的に多いです。
しかし、損害賠償請求を起こした取締役側も、勝訴の確率を上げるためには、正当な理由は存在しないと反証を行うことが必要です。解任という事態に直面した場合には、どのような経緯で解任に至ったかを客観的に示せる証拠を事前に収集しておきましょう。
特例有限会社において、任期の定めのない取締役の場合
取締役は不当に解任された場合、残った任期分の役員報酬を損害賠償請求が可能です。それでは、残存任期が不明確な、つまり任期の定めのない取締役の場合はどうなるのでしょうか。
会社法施行前の考え方
会社法施行前は、有限会社の取締役については次のように定められていました。
旧有限会社法:定款などで任期を設定しない限りは、取締役には任期の定めはない
旧商法:有限会社の取締役は、任期を定めている場合のみ、損害賠償請求ができる
つまり、有限会社の取締役で任期の定めがない者は、損害賠償請求ができないと解釈されていました。
会社法施行後の考え方
会社法施行後は、有限会社は特例有限会社として存続しています。特例有限会社の取締役については、次のように定められています。
- 取締役の任期を定める会社法332条が適用されない→任期の定めがない
- 取締役に損害賠償請求を認める会社法339条は適用されるが、旧商法のような「任期の定めがある場合」という限定がついていない
それゆえ、有限会社の取締役で任期の定めがない者に損害賠償責任が認められるかどうかは統一的な解釈がなく、裁判所によって判断が分かれています。
任期の定めのない取締役については、常に解任の可能性を想定していると消極的に解釈され、旧商法に従って損害賠償請求を認めないとする判決も存在します(平成28年6月29日・東京地裁判決など)。
ところが、取締役が「任期の定めがない」状態を終身的身分と捉えていた場合には、取締役の期待が保護される可能性もあります。
会社法339条2項が適用されないとみなされた場合でも、取締役と特例有限会社は委任関係にあるため、委任解除についての損害賠償請求を定めた民法651条2項を根拠として、損害賠償請求は可能です。
非上場会社において、任期が10年の取締役の場合
非上場会社は、定款で定めれば任期を最長10年まで設定可能です。このような場合は、損害賠償請求にはどのような影響があるのでしょうか。
非上場会社のN社において、取締役の任期が株主総会の決議により10年へと変更されました。ですがその後、N社で社内紛争が起こり、臨時株主総会が開かれて取締役の任期が1年へと変更、旧来の取締役はすべて任期満了にて退任と扱われ、取締役Iは再任に至りませんでした。こうした事情から、Iは損害賠償請求として、残存任期5年5か月で獲得できるはずだった役員報酬の支払を要求しました。
裁判では、5年5か月の間継続して同額の報酬を受け取れたとはいえないとして、退任から2年間分の役員報酬に相当する金額の支払を認めました。
任期が一般的な2年よりも長い場合は、残存任期の全額の支払が認められるとは限りませんが、できるだけ長い期間の支払を勝ち取れるよう専門家に相談することが大切です。
役員報酬を一方的に減額・削減された場合
会社側が一方的に、役員報酬を減額・削減した場合には、取締役等は減らされた分の役員報酬を請求できるのが一般的です。
なぜなら、役員報酬の金額は一度成立すると、役員と会社との合意がなければ変更できないからです。株主総会において役員報酬の金額変更を決議した場合でも、それは会社や株主側のみの意思表示に過ぎず、 取締役解任の場合とは事情が異なり、役員本人の同意がなければ変更とはみなされません。
ただし、役職に応じて役員報酬の金額が変わる場合は、役職の変更に応じて役員報酬の金額も変更されるといった例外はあります。
辞任強要や不再任の場合
会社側は役員解任すると損害賠償請求を受けるリスクが生じるため、取締役等に自ら辞めてもらおうと辞任を促したり、任期満了時に再任しなかったりといった手段に出ることもあります。
会社側が解任以外の方法で取締役等を退任させようとし、辞任届に調印するよう求めるなど、一方的に辞任を迫ったり辞任の手続きを形式的に行ったりすると、辞任強要とみなされます。
その場合、強要された辞任は法的効力をもたないため、取締役等は辞任していないことになり、役員報酬の請求権や取締役等としての立場も継続していることになります。
辞任の強要や不当な不再任は損害賠償請求が可能なケースがあるため、会社から納得のいかない扱いを受けた場合は、泣き寝入りせず専門家に相談しましょう。
役員報酬の請求以外にも会社に対して退職慰労金請求権や株式買取請求権で争うこともできますよ!
取締役等の損害賠償請求については、役員報酬や役員賞与の請求だけではなく、退職慰労金や株式買取の請求権で争うことも可能です。
退職慰労金については、株主総会で承認されないと支給が難しいといわれますが、そうとは一律に言い切れません。退職慰労金に関する規定があるなど、何らかの施策や協議が行われた痕跡があれば、請求が可能なケースもあります。
また、オーナー会社の場合は、役員がもつ少数株式を理不尽に安い価額で買い取ろうとしますが、そのような会社に対しても、適切な価額での株式買取を請求することも可能です。
同族会社などの小さい会社では、取締役等の解任や辞任強要などの辛い状況に追い込まれると、人間関係もズタズタになり、だれかに相談しようという気も起きなくなるほど疲れ果ててしまうかもしれません。
しかし、そこで泣き寝入りせずもう一歩踏ん張って、取締役等の損害賠償請求に精通している弁護士に相談して、本来受けるべきだった正当な報酬を取り戻すことをおすすめします。
「解任には正当な理由があると会社から通告されたから、裁判には勝てっこない」と思い込まずに、親身に相談にのってくれる弁護士にぜひ相談してみてください。