ワンマン社長による役員解任・辞任強要に対する対応!

ワンマン社長による役員解任・辞任強要

ワンマン社長やオーナー社長による役員解任や辞任強要にはどのように対処したらいいのでしょうか。また、役員には、解任や辞任強要について、どのような権利があるのでしょうか。役員退職慰労金や非上場株式、少数株式についてのご相談を日本で最も多く受けているM&A弁護士が役員解任と辞任強要について解説します。

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ワンマン社長やオーナー社長はなぜ役員解任や辞任強要に走るのか

そもそも、なぜ社長が自分の体の一部を切るような真似をするのでしょうか。

病気の場合は、治療という意味で病気部分の切除や摘出などを行うかもしれません。しかし、その臓器が健康であり、会社という体のために尽力している状況であれば、切り離すようなことはしないものです。役員解任や辞任の強要は、頭部(社長)の独断により、健康的かつ尽力な臓器を切り離すという行為になります。社長はなぜこのようなことを行うのでしょう。

結論は簡単です。「社長に実力がないから」です。創業者が優秀だった場合、二代目や三代目は創業者よりも能力的に劣るケースがよくあります。創業者の次代や後継者が社長になると、創業者との比較でますます能力が劣っているように見えてしまうのです。そうすると、当然ですが、二代目や後継者は役員に嫉妬や卑屈さをぶつけるという流れになります。要するに「社長の心情の問題」なのです。

二代目社長の嫉妬や卑屈さのぶつけ先は、会社を支えてきた有能な役員に向かいます。自分が会社をまとめることができていないことや、創業者と比較して無能のレッテルを貼られることに対しての苛立ちを、古参や有能な役員にぶつけ、役員解任や辞任強要を引き起こすのです。これは、M&Aの中でもよく見られるケースになります。

役員解任に辞任強要で辞めさせられた役員の中には「自分が至らなかったのだろうか」「ここまで会社を支えてきたのに、なぜ」という悔恨のような気持ちを持つ人も少なくありません。中には「自分が悪かったのだ」「創業者の意志を守れなかった」と落ち込んでしまう元役員もいます。

会社は役員や社員の尽力により発展してきたのです。会社は社長だけのものではありません。会社の代替わりやM&Aなどでよく見られる役員解任や辞任強要の原因の多くは、辞任・解任の対象になった役員にあるのではなく、ワンマン社長にあることが多いのです。

ワンマン社長による役員解任や辞任強要の5つのパターン

ワンマン社長やオーナー社長による役員解任や辞任強要に繋がる場合、以下のようなトラブルが社内で起こっているケースが多くなっています。おおむね5つのケースに分類可能です。問題に頭を悩ませ、最終的にワンマン社長やオーナー家、創業者一族が原因で辞任強要や役員解任に繋がるという流れになります。

  1. ワンマン社長のトラブルが絶えない
  2. 配当や報酬がもらえない
  3. 自分勝手で独善的な決断をする
  4. 会社そのものや資産を私物化している
  5. 株式の権利行使を認めてもらえない

ワンマン社長のトラブルが絶えない

役員に対してワンマン社長の態度や行為がトラブルになっているケースや、ワンマン社長が社外でトラブルを起こし、役員がトラブル対処で手いっぱいになっているケースのことです。

ワンマン社長が社内でトラブルを起こしているケースでは、トラブルが社員や他役員の知るところになっている場合と、潜在的な場合があります。解任や辞任の対象になる役員と社長がトラブルになっているケースも少なくありません。社長から役員に対しての嫌がらせなどが発生しているケースもあるのです。

トラブルの原因は社長の性格や事業方針など、さまざまな理由があります。

配当や報酬がもらえない

社長が諸々の理由で代替わりしてから、正当な配当や報酬がもらえなくなったというケースです。

報酬や配当は正当な権利になります。社長の個人的な感情で「払わない」「渡したくない」は通用しません。しかし、嫌がらせや辞任強要、役員解任などの手段として「渡すべきものを渡さない」というケースが起きる可能性があります。

正当に受け取ることのできるものを受け取れず、話や関係がこじれ、対立を生む。嫌がらせの方法として使われる。結果、辞任や解任に至ることがあるのです。

自分勝手で独善的な決断をする

社長が役員たちの意見を無視して会社経営を独善的に進めるケースです。役員の多くは「これでは会社の運営が停滞する」「いいやり方ではない」と注意しますが、そうすると社長にとって役員が目の上のたんこぶになってしまいます。

嫌がらせや圧力など、いろいろな方法で目の上のたんこぶ的な存在になっている役員解任や辞任強要を行う事例も頻出パターンです。

会社そのものや資産を私物化している

社長や創業者一族、オーナー家、大株主が会社そのものや会社資産を私物化しているケースになります。会社の事業や内部の仕事に対して権利のない口出しをする他、会社資産を私物化し、我が物顔で使い込みなどするケースもあるのです。

会社役員は社長や創業者一族、オーナー家にとって邪魔な存在になるため、役員解任や辞任強要によって追い出そうとします。

株式の権利行使を認めてもらえない

役員は会社の株式を有していることが少なくありません。役員が社長にとって不利益なことをしないように、社長や創業者一族、オーナー家、大株主が株式の権利行使を邪魔することがあります。

株式に付いている権利は、当然に権利行使が認められるものです。それなのに権利の行使を邪魔される、つまり「会社にとって良い判断をさせてもらえない」ということになります。社長にとって、権利行使が邪魔になる可能性が高いからです。持っている株式の譲渡を迫られることもあります。

社長などにとって邪魔になることはさせず、役員解任や辞任強要へと追い込んで行く流れです。

ワンマン社長による役員解任・辞任強要に対する対処法と知っておきたい知識

社長や創業者一族、オーナー一家、大株主などが原因で役員解任や半強制的な辞任に追い込まれた場合の対処法は3つあります。

  1. 正当な理由のない解任や辞任に対しては損害賠償請求ができる
  2. 役員が保有している株式の買取請求が可能である
  3. 役員退職慰労金の請求が可能である

3つの対処法と、対処法と一緒に知っておきたい知識について順番に見て行きましょう。

正当な理由のない役員解任や辞任に対しては損害賠償請求ができる

役員が一方的な理由で解任や辞任に追い込まれた場合、そのまま泣き寝入りするのは悪手です。役員には会社の発展に尽くしたという功績があります。会社が大きくなり、創業者から次代の社長へと会社を繋ぐことができたのは、役員の貢献もあったからです。

解任や辞任に追い込まれてからといって、そのまま諦める必要はありません。正当な理由なく辞任や役員解任に追い込まれた役員は、損害賠償請求が可能です。

役員の任期中の不当な解任については、残存任期の役員報酬相当額を損害額として損害賠償の請求ができます。役員や重役などの会社の貢献者側から辞表を提出した場合にも、不当を理由として損害賠償請求が認められる可能性があるのです。

損害賠償請求が可能である旨は、会社法339条2項に定められています。

第三百三十九条 役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。

2 前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。

ワンマン社長による役員解任・辞任強要!従業員と役員の違い!

会社員(労働者、従業員)と役員は、そもそも会社との契約関係が異なります。従業員と役員では契約内容が異なるのです。

従業員は雇用契約に基づいて会社に雇われて仕事をし、給与を受け取ります。不当な解雇については、労働契約法16条によって守られるのです。

第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

役員も会社で仕事をしている以上、労働契約法によって守られている。つまり、正当な理由のない解任や辞任強要については、労働契約法の観点から許されないだろうと思うかもしれません。役員については、この労働契約法16条の適用はありません。役員は会社と雇用契約を結んでいないからです。

役員と会社が結ぶのは従業員の契約とは異なる「委任契約」という契約になります。役員の中には労働者兼役員というタイプの人もいますが、多くの役員は委任契約に基づいて役員になっているのです。委任契約の関係なので、労働契約に基づく守護は基本的にありません。

会社の役員は、理由を問わず株主総会による解任が可能になっています。取締役に職務上の不正があった場合や原告となる株主が発行済み株式数の3%以上を保有しているなどの条件を満たしていれば、裁判所に 取締役解任の訴えを提起することも可能です。

ただ、ここで考えなければいけないのは、役員解任や辞任強要が株主総会や法律のルールに則って行われるのではなく、社長や創業者一族、オーナー家、大株主などのワンマンによって行われるという点です。

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役員解任の正当な理由とは

会社法339条2項には、「正当な理由がある場合を除き損害賠償請求できる」と書かれています。

ワンマン社長などによる役員解任や辞任強要があったとして、「どのラインが正当な理由なのか」が問題になるのです。ワンマン社長などの独断や私的な都合での役員解任や辞任強要が正当な理由に該当すると解釈されるならば、損害賠償請求は許されないという理屈になります。正当な理由とは何なのでしょう。

解任の正当な理由は4つあります。

  1. 法令や定款の違反行為
  2. 職務への著しい不適格
  3. 経営上の判断ミスや失敗
  4. 心身の故障

役員は会社の舵取りをする存在なので、「舵取りができない状態になる(心身の故障など)」「舵取りのルールを逸脱した(法律などのルールは守るのが当然)」「職務への不適格(甚だしく怠慢な役員で仕事をしないなど)」「舵取りをミスした(会社の経営や資金に大きな打撃を与えた)」などは解任の正当な理由になります。

ただし、経営の失敗については判断のラインが非常に難しく、実際に正当な理由として考えるかどうかには疑義があるのが現状です。どの程度の失敗を正当な理由だと判断するかについてのラインも難しいところになります。

社長の独断や個人的な意見、事情などは原則的に正当な理由にはなりません。会社に何かをしたわけではなく、極めて主観的な理由です。ワンマン社長の役員解任や辞任強要が正当な理由になっていたら、会社の役員会は無法地帯のようになってしまいます。

ワンマン社長やワンマンオーナー社長、創業者一族、オーナー家、大株主などによる独裁的な役員解任や辞任強要は正当な理由にあたらないため、損害賠償請求が可能であるという理屈になるのです。

ワンマン社長による役員解任による損害賠償の範囲とは

役員が解任されなければ支給された役員報酬については、損害賠償の範囲内とされています。賞与については、認められるケースと認められないケースがあるため注意が必要です。慰謝料や弁護士費用などは基本的に認められません。

役員が保有している株式の買取請求も可能である!

役員が保有している会社の株式については、会社側に買取を求めることが可能です。

ワンマン社長の場合は株式譲渡を強要すると共に役員解任や辞任強要を行うこともあるのですが、要求には応じるべきではありません。株式譲渡をしてしまうと、株主総会招集などのいざというときに役立つ権利まで失ってしまうからです。株式が不要な場合は、会社側に正当な手続きで引き取ってもらいましょう。

ただ、問題になるのは、株式買取請求の際の価格です。会社の社長などと揉めている場合や、役員解任や辞任強要で役員としての席を追われてしまった場合などは、会社側が不当に低い価格での買取を提示する可能性があります。役員の地位まで追われ、株式まで買い叩かれる。これでは、一方的にワンマン社長が得をするだけではないでしょうか。あまりにも理不尽です。

株式にはれっきとした価格が存在します。非上場株式についても、適正な価格を算出可能です。非上場株式・少数株式などの問題に強い弁護士に相談して買取請求を進めることをおすすめします。

役員の土地・建物・設備などを買取請求できる可能性もある!

役員が会社に買取請求できるのは、株式だけではありません。土地や建物、設備などを買取請求できる可能性があるのです。

役員の所有している土地の中でも会社の敷地になっている土地や、会社の事業に使っている建物などは買い取り請求が可能なケースがあります。この他に、会社の事業に供している設備などがあれば、買取請求ができる可能性があるのです。

役員は会社に対しての働きも大きいものですが、事業への不動産や設備提供の面でも貢献が大きいことがあります。買取請求については、弁護士に相談して、適正かつ正当に買取してもらうようにすることが重要です。

役員解任や辞任強要でも役員退職慰労金の請求が可能である!

退職金の支給は、基本的に従業員が対象になります。役員は従業員のように、会社と雇用関係で結ばれる存在ではないという話をしました。そのため、役員は退職金の支給対象にはならないのです。ただし、会社に貢献した役員に何の慰労金もないのは不公平ではないでしょうか。

役員には退職金はありませんが、役員退職慰労金が支給されます。役員退職慰労金は定款または株主総会によって額を決めるのがルールです。定款や株主総会が絡む場合、社長などに意向が支払いに影響することが考えられます。

不当解任や辞任強要をするようなワンマン社長が役員退職慰労金を支払うでしょうか。答えは「否」ではないでしょうか。ワンマン社長による解任や辞任の際の役員退職慰労金の不支給や不当支給は現実に多く起きている問題になります。

ワンマン社長の役員解任や辞任強要において、役員退職慰労金の不支給や不当支給にはどのように対処すべきなのでしょうか。

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退職慰労金を払ってもらえない場合は契約・規定・定款・株主総会決議の確認をする!

役員退職慰労金の支給が問題になった場合は、まずは契約や会社の慰労金規定などを確認します。

役員の退職慰労金は、職を退いたときに必ず支払われる性質のものではありません。基本的に、契約や規定という支払いの根拠が必要だと解釈されるのです。まずは契約や慰労金規定などの根拠を探すことがポイントになります。

契約や慰労金規約の他には、慰労金関係の保険に加入していたり、退職慰労金の支払いを前提とした事業計画や施策、話し合いなどが行われていたりするケースはなかったでしょうか。役員退職慰労金に知見のある弁護士にチェックしてもらうといいでしょう。

株主総会決議や定款もチェックすべきです。すでにお話したように、役員退職慰労金は定款や株主総会で額を決める必要があるとされているのです。これは、会社法361条に明記されているルールになります。

第三百六十一条 取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。

社長も含む他役員がわざと株主総会に役員退職慰労金の提案をしなかった場合は、株主総会に提案すべき職業上の義務を怠った(義務違反)として、他役員に対して損害賠償請求が認められる可能性が考えられます。

株主総会がなくても役員退職慰労金の請求が可能なケースも多い!

役員退職慰労金は株主総会決議が必要であると明記されていることが多いのですが、株主総会がなくても請求できるケースは決して少なくありません。

規定や株主総会がなくても「株主総会決議が存在している」と評価できる場合は、請求が認められる可能性が高いのです。実際に、株主総会の決議がなくても、多数派株主の同意があったと認められるケースで支給が認められた判例があります。

債権回収を想像してみてください。債権回収は債権の証拠になる契約書などがあった方がスムーズですが、契約書などが存在していないからといって必ず回収不能になるわけではありません。役員退職慰労金についても規定や契約、株主総会決議、定款などを確認します。債権回収のときのように、証拠になりそうなものを見つけるためです。

見つからなかったとしても、諦める必要はありません。債権回収のときは、LINEやメールなども確認し、手がかりを探ります。役員退職慰労金についても、手がかりを探し、内容的に僅かでも掠っていれば請求できる可能性があるのです。

慰労金やM&Aの知識に通じている弁護士は会社の書類やメール、資料にも通じています。僅かな内容から役員退職慰労金の請求に繋げられる可能性があるので、諦めずに相談してみてください。

役員が従業員の地位を有すると判断できるケースもある!

役員という肩書を持ち、なおかつ従業員のようなかたちで仕事をしていた場合は、退職金受け取りの可能性についても検討する余地があります。

従業員の退職金は、役員の退職慰労金とは異なり、株主総会決議を経る必要がありません。退職金規定などに計算方法が定められていればいいのです。

  1. 役員就任の経緯
  2. 役人就任前後で業務内容は変わっているか
  3. 会社や他役員の指揮系統に属しているか
  4. 出退勤のルールはどうなっていたか
  5. 社会保険や労働保険の加入状況はどうだったか
  6. 従業員より高額の報酬を支給されていたか

以上の点を検討すると、役員の名前があくまで肩書のみで、実態は従業員であったというケースがあります。実態が従業員だと判断できる場合は、従業員として退職金の請求ができる可能性を検討すべきです。

ここから先の重要な実務上の留意点については来所相談で!

なお、この論点については、実際の運用時における留意点の方が重要であり、ここから先の重要な実務上の留意点については、来所相談又は実際受任時にのみお話しさせて頂きます!

最後に

会社は人間の体のような存在です。頭だけでは生きて行けません。血肉や内臓があってはじめて機能するのです。会社役員は人体の要衝である内臓のような存在ではないでしょうか。会社に貢献した会社役員を正当な理由もなく切り捨てる行為は、ワンマンであり、横暴です。そして、会社という体の一部を切り捨てる行為に等しいと言えます。

ワンマン社長などに役員解任や辞任強要をされた場合は、損害賠償請求や所持している株の買取請求などが可能です。役員退職慰労金の請求もできる可能性が高くなっています。解任や辞任で諦めず、会社へ貢献した分を、しっかりと権利として請求しましょう。

役員退職慰労金の請求については法的な深い知識と実務経験が必要になるため、弁護士に相談し、計画を立てて進めることを提案いたします。

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