取締役の責任を免除する方法とは?取締役の責任の範囲をわかりやすく解説
取締役の役割とは
株式会社における取締役の役割とは、責任をもって会社の事業運営に携わることです。当然ながら、事業の運営にあたり、善良な管理者の注意をもって、忠実に業務に当たらなければなりません。会社に損害をもたらした場合、株主等から損害賠償責任を負うこととなります。
取締役の役目
取締役の役目とは、会社の業務・運営において、間違った方向に進んでいないか、また、代表取締役や、他の取締役に対しても監視監督義務を担っています。
取締役は、株主総会に参加し、前年度の事業内容の報告および本年度の事業計画等に関して報告することも役割の一つです。
また、取締役が直接窓口になることで、取引先との良好な関係を構築することも大切な役目のひとつと考えられます。
取締役の善管注意義務および忠実義務
会社法第330条において、株式会社と取締役とは、委任の関係であると定義しています。民法第644条で、受任者(取締役)は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務(善管注意義務)を負います。
また、取締役は、会社法第355条において、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければなりません(忠実義務)。
一方で、取締役が会社の秘密事項を利用することで、私欲をはかる恐れもあるかもしれません。会社法第356条では、競業及び利益相反取引の制限について定められています。
取締役が自己または第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引を行う場合、株主総会で、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければなりません。
取締役の会社に対する責任
取締役の責任として、会社に対する責任および第三者に対する責任があります。
会社に対する責任として、以下の5点についてそれぞれ解説します。
- 任務懈怠責任(会社法第423条)
- 競業取引による責任(会社法第356条1項1号)
- 利益相反取引による責任(会社法第365条1項2号)
- 株主等の権利行使に関する利益供与責任(会社法第120条1項)
- 違法な剰余金分配責任(会社法第462条)
任務懈怠責任
会社法第423条 取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この章において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
任務懈怠責任とは、取締役がその任務を怠った場合、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負います。
取締役は、任務懈怠責任を問われるケースとして以下の3点があります。
法令違反行為
取締役は、会社の業務遂行において、細部にわたり、法令に違反していないかチェックする必要があります。法令違反は、任務懈怠と理解されます。取締役は、関連法令のどにも目配りを怠ってはなりません。
監視・監督義務違反行為
取締役は、代表取締役や他の取締役を監視および監督する義務も担っています。業務遂行する取締役を他の取締役が監視・監督を行っているのか否かが問われます。
経営判断の誤りによる会社への損害発生
経営判断の誤りであるかどうかを判断する場合、通常経営判断の原則に基づいて判断します。
判断当時の状況を踏まえて、然るべき調査を行ったのか、不合理な判断が代表取締役にはなかったか等を審査します。経営判断の誤りにより、会社に損害を与えた結果となっても、すぐに義務違反と判断せず、経営判断を下すのに、取締役は十分な任務を果たしていたのかが重要です。
競業取引による責任
会社法第356条 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
1項1号 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。
競業取引とは、取締役が自己あるいは第三者のために会社の事業の部類に属する取引(競業取引)をいいます。
取締役が競業取引をしようとする場合、株主総会、(取締役会が設置されている会社なら取締役会)において、当該取引について重要な事実を開示して承認を得る必要があります。
取締役は会社の営業上の秘密事項や顧客情報などを知るべき立場にあるため、取締役が会社の事業と同種の取引を行う場合、会社の情報を利用する恐れが大きいため、承認を得ることが必要です。
もし、会社の承認を受けずに競業取引を取締役が行い、会社が損害を受けた場合、取締役は会社に対して損害賠償請求責任を負います。
また、会社の承認を受けた場合でも、任務懈怠がある場合は損害賠償責任を負います。
利益相反取引による責任
会社法第365条 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
1項2号 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。
1項3号 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。
利益相反取引とは、会社の利益と取締役の利益とが相反する取引を指します。
利益相反取引には、2種類あり、直接取引と間接取引です。
直接取引の具体例として、会社の所有不動産を売却するときに、取締役個人が買主となる取引の場合があります。
間接取引の具体例として、取締役と第三者との間の債務を会社が保証する場合があります。
利益相反取引は、会社に不利益をもたらす可能性があるため、競業取引同様、株主総会(取締役会が設置されている会社なら取締役会)において当該取引について重要な事実を開示して承認を得ることが必要です。
利益相反取引で会社に損害を与えた場合、会社の承認を得ていた場合であっても取締役は会社に対し損害賠償責任を負います。
間接取引においても、当該取引に関った取締役のみならず、取締役会で当該取引を承認した取締役も、任務を怠ったとみなされ、賠償責任を負います。承認した取締役が賠償責任を拒否する場合、過失がなかったことを証明しなければなりません。
株主等の権利行使に関する利益供与責任
会社法第120条1項 株式会社は、何人に対しても、株主の権利、当該株式会社に係る適格旧株主(第847条の2第9項に規定する適格旧株主をいう。)の権利又は当該株式会社の最終完全親会社等(第847条の3第1項に規定する最終完全親会社等をいう。)の株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与(当該株式会社又はその子会社の計算においてするものに限る。以下この条において同じ。)をしてはならない。
株式会社は、何人に対しても、株主や適格旧株主、および最終完全親会社等の権利の行使に関し、財産上の利益の供与を行ってはいけないことを定めています。
何人に対しても、には、株主以外も含まれます。
適格旧株主とは、株式交換・株式移転、または三角合併型の吸収合併により完全親会社の株式を取得し、引き続きその株式を有している株主をいいます。
特定の株主に対して無償あるいは著しく少ない場合、株式会社は財産上の利益の供与をしたものと推定されます。供与を受けた者は、善悪を問わず株式会社に返還することが必要です。
利益供与に関与した取締役は、連帯して供与した利益の価額に相当する額を支払う義務を負います。
ただし、供与をした取締役を除いた取締役が、職務に関し善管注意義務を怠らなかったことが証明できれば、供与した利益の価額に相当する額を支払う義務を負いません。
ただし、免責のためには、総株主の同意が必要です。
違法な剰余金分配責任
会社法第462条 前条第1項の規定に違反して株式会社が同項各号に掲げる行為をした場合には、当該行為により金銭等の交付を受けた者並びに当該行為に関する職務を行った業務執行者(業務執行取締役(指名委員会等設置会社にあっては、執行役。以下この項において同じ。)その他当該業務執行取締役の行う業務の執行に職務上関与した者として法務省令で定めるものをいう。以下この節において同じ。)及び当該行為が次の各号に掲げるものである場合における当該各号に定める者は、当該株式会社に対し、連帯して、当該金銭等の交付を受けた者が交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭を支払う義務を負う。
分配可能利益を超えた金額を株主に支払った場合、取締役は違法配当分を支払わなければなりません。違法な剰余金分配は、過失責任ではあるものの、取締役自身に過失がなかったことを証明できた場合、取締役は支払い義務を負いません。
総株主の同意があれば、分配可能利益を限度に支払いの免除が受けられます。しかし、分配額を超えて支払った範囲に関しては、会社債権者保護の観点より、株主の同意があっても免除はできません。
取締役の第三者に対する責任
取締役は、悪意重過失で職務執行を行った結果、第三者に損害が発生した場合、取締役は損害賠償責任を負います。損害を被った第三者は、会社のみならず、職務を執行した取締役に対しても損害賠償請求が可能です。会社のみの損害賠償請求では、会社が倒産等により消滅している恐れもあるため、第三者保護の観点より執行取締役への請求もできます。責任を負う取締役が複数いる場合には、連帯して責任を負い、第三者の範囲については株主も含みます。
損害には、第三者が会社から直接被った直接損害と、会社の財産の毀損により被った間接損害とがあります。ここでの損害の範囲は、直接損害、間接損害、両方を含みます。
取締役の責任を免除できる方法とは
取締役は、善管注意義務や忠実業務を負い、任務を怠った場合、第三者より損害賠償請求を負います。
しかしながら、取締役が任務を遂行したにもかかわらず、さまざまな要因により、損失が発生する場合があるかもしれません。
経営判断の原則
取締役が経営判断を行うにあたって、事実認識に誤りがなく、判断内容に不条理な点がない場合、善管注意義務違反および忠実義務違反を認めるべきでない考え方を経営判断の原則といいます。
経営のプロとして、株主より会社の経営を委任されている取締役の業務執行には、常にリスクと相対しています。そのため、取締役は誤った判断を起こさないよう細心の注意を払うことが必要です。正しい判断を行ったつもりでも、会社に損害が後から発生することも考えられます。経営者責任を都度求められると、取締役は萎縮し、適切な判断ができなくなるかもしれません。
そのため、不注意により事実認識を誤ったり、事実に基づく判断が理にかなっていなかったりする場合を除き、経営者が判断を誤った場合でも、善管注意義務や忠実義務について問われない仕組みとなっています。
会社法では、取締役に対し、責任をすべて免除、あるいは一部を免除できる場合として以下の4点を定めています。
- 総株主の同意による取締役の責任の全部免除(会社法第424条)
- 株主総会の特別決議による取締役の責任の一部免除(会社法第425条)
- 定款の定めに基づく取締役会の決定による取締役の責任の一部免除(会社法第426条)
- 定款の定めに基づく責任限定契約による取締役の責任の一部免除(会社法第427条)
会社法において役員の責任を免除することができるのは、会社に対する責任のみであり、第三者に対する責任について免除するものではありませんので、注意が必要です。
総株主の同意による取締役の責任の全部免除
会社法第424条 前条第1項の責任(任務懈怠責任)は、総株主の同意がなければ、免除することができない。
総株主の同意があれば、取締役の責任をすべて免除することが可能です。
会社法第424条では、役員等が果たすべき任務を怠った場合の責任において、総株主の同意がなければ免除できないことが示されています。
つまり、総株主の同意があれば、取締役の責任の免除が可能です。
株主総会を開かなくても、すべての株主の同意が得られれば、取締役の責任がすべて免除されます。
規模の小さな株式会社である場合、株主数も限定的であるため、株主総会に諮るより機能的であるといえるかもしれません。
株主総会の特別決議による取締役の責任の一部免除
会社法第425条 前条の規定にかかわらず、第423条第1項の責任(任務懈怠責任)は、当該役員等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときは、賠償の責任を負う額から次に掲げる額の合計額(第427条第1項において「最低責任限度額」という。)を控除して得た額を限度として、株主総会(株式会社に最終完全親会社等(第847条の3第1項に規定する最終完全親会社等をいう。以下この節において同じ。)がある場合において、当該責任が特定責任(第847条の3第4項に規定する特定責任をいう。以下この節において同じ。)であるときにあっては、当該株式会社及び当該最終完全親会社等の株主総会。以下この条において同じ。)の決議によって免除することができる。
株主総会の特別決議において、出席株主の3分の2以上の賛成が得られれば、取締役の責任の一部が免除されることがあります。すべて免除されないので注意が必要です。
株主総会の特別決議での取締役の責任の一部が免除されるにあたっての要件やプロセス、および免責されない金額について解説します。
取締役が善意・無重過失であることが免責の要件
取締役が責任の一部を免除されるためには、取締役が善意でかつ重大な過失がない場合でなければなりません。(会社法第425条)
取締役に悪意がある場合、または重大な過失が認められる場合においては、取締役は責任を負います。
免責されるのに必要なプロセス
取締役が株主総会の特別決議で免責されるためには、以下のプロセスが必要です。
1. 取締役の責任の一部免除されるには、株主総会の責任の免除に関しての議案を提出することが必要です。議案を提出するには、設置会社により、同意を必要とする委員等が異なります。
- 監査役設置会社の場合・・・監査役
- 監査等委員会設置会社の場合・・・各監査等委員
- 指名委員会等設置会社の場合・・・各監査委員
2. 監査役等の同意が得られると、株主総会の特別決議に諮ります。特別決議には、以下の事項を株主に開示しなければなりません。
- 責任の原因となった事実
- 賠償責任額
- 責任を免除可能金額およびその算定根拠
- 免除する理由
- 免除金額
免責されない金額
免責されない金額を算出するには、免責可能な金額を知る必要があります。株主総会の特別決議で免除が可能な金額は会社法により定められています。
- 1年あたりの報酬額に基づいて算定される金額
役職により、以下のように定められています。
区分 | 金額 |
代表取締役 | 1年当たりの報酬等の額×6 |
業務執行取締役 | 1年当たりの報酬等の額×4 |
その他の取締役 | 1年当たりの報酬等の額×2 |
- 取締役が有利な条件で当該会社の新株予約権を引き受けた場合における当該新株予約権に関する財産上の利益に相当する額として、法務省令で定める方法により算定される額
例えば、1年あたりの報酬額に基づいて算定される金額で免責可能金額を算出する場合、業務執行取締役の1年あたりの報酬等の金額が1,500万円であれば、免責されない金額は6,000万円です。
賠償責任金額が1億円の場合、免責が可能な金額は1億円マイナス6,000万円であるため、4,000万円となります。
定款の定めに基づく取締役会の決定による取締役の責任の一部免除
会社法第426条 第424条の規定(総株主の同意による取締役の責任の全部免除)にかかわらず、監査役設置会社(取締役が二人以上ある場合に限る。)、監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社は、第423条第1項の責任について、当該役員等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がない場合において、責任の原因となった事実の内容、当該役員等の職務の執行の状況その他の事情を勘案して特に必要と認めるときは、前条第1項の規定により免除することができる額を限度として取締役(当該責任を負う取締役を除く。)の過半数の同意(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)によって免除することができる旨を定款で定めることができる。
会社法第426条では、定款に取締役の免責事項を定めていれば、取締役会において、取締役の責任を一部免除することが可能です。免責される要件やプロセス、株主に対する通知について解説します。
免責される要件
免責される要件として、以下の点が該当している必要があります。
- 取締役が「善意・無重過失」であること
- 株式会社において取締役が2人以上いる監査役設置会社、監査等委員会設置会社または指名委員会等設置会社であること
- 定款において、取締役会の決議によって取締役の免責が可能な旨を定めていること
免責されるまでのプロセス
取締役の責任の一部を免除されるためには、以下の過程を踏むことが必要です。
- 取締役の責任の一部免除に関する議案を取締役会に諮るにあたり、監査役の同意を得ます。
- 監査役の同意を得られた後、取締役会において、責任の原因となった事案の内容や当該取締役の執行状況等を勘案して、責任の一部免除が必要である場合、取締役会が責任の一部免除を決議できます。
株主に対する事後通知
取締役会で決議を行った場合、取締役は遅滞なく株主に通知しなければなりません。
株主に通知する内容は、責任の一部免除に関する事項について、および異議がある場合、一定期間内(1ヶ月以上)に異議を述べる旨についてです。
一定期間内に、総株主の議決権の3%以上の議決権を有する株主が異議を述べた場合、免責は認められなくなります。
例えば、議決権を有する株主が100人の場合、3人以上の株主から異議が唱えられた場合、会社は取締役の責任の一部免除が認めらなくなります。
免責されない金額
免責されない金額は、株主総会の特別決議で免除されない金額と同様です。
定款の定めに基づく責任限定契約による取締役の責任の一部免除
会社法第427条 第424条の規定(総株主の同意による取締役の責任の全部免除)にかかわらず、株式会社は、取締役(業務執行取締役等であるものを除く。)、会計参与、監査役又は会計監査人(以下この条及び第911条第3項第25号において「非業務執行取締役等」という。)の第423条第1項の責任について、当該非業務執行取締役等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときは、定款で定めた額の範囲内であらかじめ株式会社が定めた額と最低責任限度額とのいずれか高い額を限度とする旨の契約を非業務執行取締役等と締結することができる旨を定款で定めることができる。
会社法第427条は、責任限定契約について定められており、取締役はあらかじめ定款の定めにおいて、会社との契約により取締役の責任を一部免除できます。対象となる取締役は、業務執行取締役等以外の取締役で、社外取締役がその例です。
免責される要件
会社法第427条は、責任認定契約について定めており、免責される要件として、非業務執行取締役等である必要があります。業務執行取締役等とは、会社法第363条によると、以下の者を指します。
- 代表取締役
- 代表取締役以外の取締役で、取締役会の決議によって取締役会設置会社の業務を執行する取締役として選定されたもの
つまり、非業務執行取締役等は、会社の業務に関与していない取締役を指します。
また、非業務執行取締役等以外の取締役は、会社の定款に定めにより、責任の限度額についての契約(責任限定契約)をあらかじめ交わされています。
あと、他の免責要件同様、取締役は善意・無過失でなければなりません。
免責される限度額
免責される限度額は、以下のいずれか高い金額になります。
- 定款で定められた額の範囲内であらかじめ会社が定めた額
- 最低責任限度額(1年当たりの報酬等の額×2)
例えば、定款で定められている金額が3,000万円で、非業務執行取締役等の1年当たりの報酬等の金額が1,000万円の場合、免責される金額は3,000万円となります。
定款変更までのプロセス
近年では社外取締役を設置する会社が増えました。しかし、社外取締役は業務を執行しないのが一般的であり、責任限定契約を締結するには、定款を変更しなければなりません。
責任限定契約を締結可能な定款に変更するには、株主総会の特別決議を経ることが必要です。また、特別決議の議案を提出するためには、監査役の同意が必要となります。
定款変更が終わった場合、効力の発生日より2週間以内に変更登記を行う必要があります。
責任限定契約締結までのプロセス
株式会社は、非業務執行取締役等との間で契約を交わします。契約締結の流れは以下の通りです。
1. 株式会社側は責任限定契約に関しての定款の定めを置く
定款に責任限定契約を定めておく必要があります。定めがない場合、定款を変更しなければなりません。
2. 株式会社と非業務執行取締役等が責任限定契約を締結する
責任限定契約を交わすか否かに関しては、株式会社において「重要な業務執行の決定」に該当するため、取締役会の決議が必要です。
免責のプロセス
非業務執行取締役等について、任務懈怠責任が実際に発生した場合、会社は損害が発生したことを知った直後にある株主総会で報告する必要があります。その際、開示する項目として次のものがあります。
- 責任の原因となった事実
- 賠償の責任を負う金額
- 責任限定契約により免除できる金額の限度及びその算定根拠
- 責任限定契約の内容及び契約を締結した理由
- 任務懈怠によって生じた損害のうち当該社外取締役が責任を負わないとされた金額
責任限定契約による取締役の免責については、他の取締役の免責と異なり、株主総会決議が不要で、情報開示だけで十分である点があります。
とはいえ、会社側にとっては損失であることには変わりないので、ただ報告しただけではなく、株主に対し丁寧に説明する必要があるでしょう。
役員等賠償責任保険(D&O保険)
取締役が多額の損害賠償を請求された場合、負担リスクを軽減する手段として、役員等賠償責任保険(D&O保険)があります。
役員等賠償責任保険(D&O保険)とは、取締役が業務遂行において損害賠償を請求された場合、支払われる損害保険です。
役員等賠償責任保険は、株式会社が保険者との間で締結する保険契約です。役員等がその職務の執行に関し、責任を負うことまたは当該責任の追及に係る請求を受けることによって生ずることのある損害を、保険者が塡補することを約するもので、役員等を被保険者とするものと定められています。
また、「役員等賠償責任保険契約」の内容の決定をするには、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議が必要です。
役員責任免除の事例
業務執行取締役等でない取締役および社外監査役でない監査役について、定款の変更により責任限定契約を締結が可能とする、役員責任の免除を行っている事例を紹介します。
日本精線株式会社
日本精線株式会社(以下、日本精線)は、大阪市に本店を置くステンレス鋼線やナスロン(金属繊維)製造業で、東京証券取引所プライム市場に上場しています。
2015年5月、日本精線は下記のように定款を新設し、取締役会で決議されています。
定款変更の目的は、以下の2点です。
- 取締役および監査役が、その期待を十分に発揮できるようにするため
- 社外取締役および社外監査役として適切な人材を確保するため、業務執行取締役等でない取締役および監査役との間で、責任限定契約の締結ができるようにするため
第31条 (取締役の責任免除)
当会社は、会社法第426条第1項の規定により、取締役会の決議をもって、同法第423条同法第423条第1項の取締役(取締役であったものを含む。)の損害賠償責任を、法令の限度において免除することができる。
当会社は、会社法第427条第1項の規定により、取締役(業務執行取締役等である者を除く。)との間に、同法第423条第1項の損害賠償責任を限定する契約を締結することができる。ただし、当該契約に基づく損害賠償責任の限度額は、法令が規定する額とする。
第40条(監査役の責任免除)
当会社は、会社法第426条第1項の規定により、取締役会の決議をもって、同法第423条第1項の監査役(監査役であった者を含む。)の損害賠償責任を、法令の限度において免除することができる。
当会社は、会社法第427条第1項の規定により、監査役との間に、同法第423条第1項の損害賠償責任を限定する契約を締結することができる。ただし、当該契約に基く損害賠償責任の限度額は、法令が規定する額とする。
日本精線は、定款の変更を、2015年6月26日の定時株主総会で議案として付議し、承認可決されています。
定款変更の承認可決を受け、社外取締役1名、および社外監査役1名との間で責任限定契約を締結しています。
横浜冷凍株式会社
横浜冷凍株式会社(以下、横浜冷凍)は、横浜市に本店を置く、冷蔵倉庫業ならびに水産品加工販売業で、東京証券取引所プライム市場に上場しています。
2015年11月、横浜冷凍は下記のように定款を新設し、取締役会で決議されています。
定款変更の目的は、以下の2点です。
- 業務執行を行わない取締役及び社外監査役でない監査役との間でも責任限定契約を締結することが可能となったため。
- 適切な人材を確保し、期待される役割を十分に発揮できるようにするため
第 30 条(取締役との責任限定契約)
当会社は、会社法第 427 条第 1 項の規定により、取締役(業務執行取締役等であるものを除く。)との間に、同法第 423 条第 1 項の損害賠償責任を限定する契約を締結することができる。ただし、当該契約に基づく損害賠償責任の限度額は、法令が規定する額とする。
第 39 条(監査役との責任限定契約)
当会社は、会社法第 427 条第 1 項の規定により、監査役との間に、同法第 423 条第 1 項の損害賠償責任を限定する契約を締結することができる。ただし、当該契約に基づく損害賠償責任の限度額は、法令が規定する額とする。
横浜冷凍は、定款の変更を、2015年12月22日の定時株主総会で議案として付議し、承認可決されています。 定款変更の承認可決を受け、社外取締役2名、および社外監査役4名との間で責任限定契約を締結しています。
株式会社ケアサービス
株式会社ケアサービス(以下、ケアサービス)は、東京都大田区に本店を置く介護事業業者で、東京証券取引所スタンダード市場に上場しています。
2015年5月、ケアサービスは下記のように定款を変更し、取締役会で決議されています。
新たに業務執行取締役等でない取締役及び社外監査役でない監査役との間でも責任限定契約を締結することが認められたため、定款変更を行っています。
(取締役の責任免除)第28条(略)
2 当会社は、社外取締役との間で、会社法第423条第1項の賠償責任について、法令に定める要件に該当する場合には、賠償責任を限定する契約を締結することができる。ただし、当該契約に基づく賠償責任の限度額は、金100万円以上であらかじめ定めた額と法令のさだめる最低責任限度額とのいずれか高い額とする。
(監査役の責任免除)第39条(略)
2 当会社は、社外監査役との間で、会社法第423条第1項の賠償責任について、法令に定める要件に該当する場合には、賠償責任を限定する契約を締結することができる。ただし、当該契約に基づく賠償責任の限度額は、金100万円以上であらかじめ定めた額と法令の定める最低責任限度額とのいずれか高い額とする。
ケアサービスは、定款の変更を2015年6月22日の定時株主総会で議案として付議し、承認可決されています。 定款変更の翌年、ケアサービスは、社外取締役2名、および監査役3名との間で責任限定契約を締結しています。
まとめ
取締役は会社の事業運営において重要な役割を担っており、それゆえに、会社に損害をもたらした場合、賠償責任を問われることになります。
しかしながら、取締役が善意・無重過失である場合、取締役は責任の免除および一部の免除が会社法で定められています。
責任の免除が認められているとはいえ、取締役は任務である善良な管理者の注意をもって、忠実に業務を遂行することが必要です。